SSブログ

『大和を掘る』で掘った「平城京」の井戸

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館で『2015年度発掘調査速報展 大和を掘る34』が9月4日まで開催されている。
それに合わせて20日、土曜講座が開催された。

(1)演題「平城京における土地利用の一例ー平城京左京三条二坊十四坪」
講師は山田隆文氏(橿原考古学研究所)

「平城京左京三条二坊十四坪」の発掘調査地は近鉄新大宮駅の南西方の奈良警察署跡地だ。
同地では弥生時代の田んぼ遺構が検出され、今年6月に現地発掘調査報告会があった。
今回の報告は2015年度にその上層の発掘調査され、奈良時代後半の遺構が確認された。
掘立柱建物は43棟、井戸は19基、土坑などが今のところ確認されている。

横板を平面六角形に組んだ井戸が検出された。
平城京内では左京三条一坊一坪につづく2例目だ。
今回の調査では最大だった井戸は横板を平面四角形に組んだ一辺1.2mの井戸枠であった。
その内部からは多数の土器とともに軒丸瓦、曲物などの木製品、斎串などの木製祭祀具などが出土した。
井戸から一括出土数としては過去最多の29枚の和同開珎が出土した。
大和を掘る1.JPG
佐保川の氾濫による洪水砂や洪水によると考えられる整地土を挟んで、上下2時期の奈良時代の遺構面が確認され、重複関係があったため少なくとも5時期以上の土地利用の変遷があったとされている。

調査区の北西部にあるイトーヨーカ堂には奈良時代には長屋王邸があった。
調査区の遺構時期はそれ以降の奈良時代後半とされた。
柵が25条以上確認されているが、十四坪を細かい宅地に分割したではなく、一坪全体を占めた宅地の中を区画していたと推定されている。
その中で複数あった井戸を共有していたと考えられる。

昭和44年にできた奈良警察署の前は田んぼだった。
調査区の東部は江戸時代からあった農業用ため池があった。
平城京から長岡、平安遷都されるとともに、それらの宅地は次第に田んぼになった。
貴族から農民に住民が変わるとともに、土地の利用や井戸の使い方も変わった。

参考:
奈良県立橿原考古学研究所
http://www.kashikoken.jp/

(2)演題「天平の創建と鎌倉の復興ー東大寺東塔院」
講師は南部裕樹氏(東大寺)

「東塔」は鏡池の東側に位置し、『東大寺要録』などの古文書から奈良時代に創建されて鎌倉時代にお ける復興を経て南北朝時代に焼失したとされている。
『東大寺要録』に「七重宝塔一基」と記されていることからから七重塔で、興福寺の五重塔よりも巨大だったと復原されている。

昨年7 月から行われている東塔院跡の発掘調査で、約27m四方で高さ1.7m以上の鎌倉時代の基壇が確認され、奈良時代の基壇の上と周囲に盛り土を加えることによってひと回り大きくしていた。
大和を掘る3.JPG
参考:
東大寺東塔院跡
www.todaiji.or.jp/images/pdf/toutouinnato.pdf

(3)演題「平城京右京一条三坊四坪の宅地利用と井戸」
講師は鐘方正樹氏(奈良市教育委員会)

「平城京右京一条三坊四坪」という調査地は大和西大寺駅の南方で、西大寺の旧境内地にあたる。
西大寺は平城京の北西隅に位置し、764(天平宝宇8)年に孝謙上皇の発願によって造営が開始た平城京最後の官の大寺で、その広さは31町にも及んだ。
これまでにも発掘調査されてきており、2015年度の35次調査では奈良~室町時代の掘立柱建物、井戸、溝などが見つかり、奈良~室町時代の各時代に掘られた井戸が見つかり、その中から多数の土器が出土した。

奈良時代の井戸は最下段の井戸枠に転用された「扉板」が出土した。
井戸枠に転用するために扉板の上下に切り欠きを入れて、他の板と組み合うように加工されていた。
また扉板下の片隅には扉を開閉するための軸が残存していた。
大和を掘る2.JPG
底に集水するために曲物を使った奈良時代の井戸も見つかった。

また井戸枠を抜き取った後に中空の四角柱を差し込んで「息抜き」して埋められた井戸もあった。
これは井戸は地下の冥界と地上の現世をつなぐ空間とされ、「鬼」(後に井神とされる)の祟りを避けるための儀礼だった。
これは中国思想の影響で奈良時代に平城京で始まったと見られ、現代でも塩ビ管を差し込んで砂で井戸を埋める風習として残っている。

藤原京以降、宅地の東南側に井戸が作られることが多かった。
これも古代中国の『周易』の影響と指摘されている。

平安時代以降の井戸は井戸枠が抜き取られ、瓦が多量に出土した。
平安前半の井戸からは西大寺で用いられた軒丸瓦が見つかった。

参考:
奈良市埋蔵文化財調査センター
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1454477569976/index.html
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。